近年、増加傾向にある大腸がん。男性はおよそ11人に1人、女性は13人に1人が一生のうちに大腸がんと診断された経験をもちます。
また2018年の統計によると、大腸がんは女性のがんにおける死亡数の1位、男性は3位となっています。
排便やオナラの音を聴き分けて診断
そんな大腸がんの診断に役立つ研究成果がこのほど発表されました。
米ジョージア工科大学(GATech)の研究チームが、トイレ時の排便やオナラの音を聴くだけで、大腸がんをAI(人工知能)が診断できる装置を開発したということです。
大腸がんの主な症状として下痢がありますが、大腸がんで直腸や尿道に異変が出ると、排泄時の音の通り方が微妙に変化するという。
そこで研究チームは、健康な人と健康に異常がある人(大腸がんや下痢性疾患の患者)から”おトイレ”の音声サンプルを何時間分も集めてデータベースを構築します。
それをAIに聴かせて訓練させました。
AIはそれぞれの排泄における音の周波数をリアルタイムで分析し、色によって強さを表す3次元グラフ(時間・周波数・信号成分の強さ)を視覚的なスペクトグラムで表します。
これにより、どの種類の排泄イベントを反映しているかを識別し、排便、排尿、鼓腸(胃腸に多くのガスがたまった状態)の微妙な変化を特定できるようになりました。
たとえば、大腸がんの下痢に特徴的な「ゆるく水っぽい排泄音」をピンポイントで聴き分けることができます。
98%の精度と人体応用への課題
現段階では、排便、排尿、オナラを再現した合成音を98%の精度で識別することに成功しています。
人の排泄に対する直接のテストはまだ行われていませんが、この結果を見る限り、人体でも十分に有効であるとチームは考えています。
さらに重要な点として、バックグラウンドのノイズがあっても、AIは排泄の種類を正確に特定できたようです。
一方で、このAIは現段階で男性のみを対象としており、女性の排泄にはまだ対応していません。
女性の排泄器官は男性と異なるため、AIには別途学習や訓練が必要となるようです。
また将来的には、既存の家庭用スマートデバイスと組み合わせることで、自分自身の排便をモニタリングできるようになるでしょう。
たとえば、自宅のトイレで用を済ませるだけで、便器に設置されたAIが「オナラの音が悪いので検査してください」とアドバイスしてくれるかもしれません。
チームは現在、実際のさまざまなトイレ環境で録音した排泄音データを使い、AIをさらに改良しているとのことです。
世界でトイレが使えない生活をしている人は総人口の約26%と恩恵を受けられない人もいます。
しかし、家庭用トイレが99%普及している国は62ヵ国。
トイレ一式では敷居が高くなりますが、後付けで設置できる装置であれば、各家庭のトイレで診断することもできるかもしれません。
早期発見を願う人から、なかなか病院に行きたがらない人まで手軽に使えればなおのこと。
今、急速に発展している医療AIが病院から飛び出して、日常的な健康の管理にAIが役立つ日はそう遠くないようです。
参考サイト:
米GATechは排便時の音だけで大腸がんを特定できるAIを開発。大腸がんでは直腸などが変異し排便時の音に変化が出るとされていて、様々な排便音を学習したAIが病気に特徴的な下痢の音を聴き分けるという
がん検診について紹介しているWEBサイトです。大腸がん検診に関する基本的な情報を解説します。
2020年の世界のトイレ普及率 国際比較統計・ランキングです。各国のトイレ普及率と国別順位を掲載しています。各国の総人口に対して衛生的なトイレ設備を利用できる人の比率。時系列データは2000-2020年まで収録。
世界人口の26%の人々はいまだに不便なトイレ環境にある。そのようなトイレ問題の啓発のため、「世界トイレの日」が2013年に国連によって制定された。トイレの環境は健康、生命や人間の尊厳にも関わる、公衆衛生に欠かせない環境問題として改めて考えてみよう。