光合成をしない作物が誕生する。

SF作品では、火星の地下都市、太陽から遠く離れた宇宙ステーションなどでの未来の暮らしが描かれているシーンが多く登場します。

しかし、地球上とは全く異なる過酷な環境で人間が生き延びるためには、限られた資源を活用して食料を生産しなければなりません。

植物が太陽光を糖に変える役割を果たす光合成は、地球上では大成功を収めていますが、エネルギー効率が悪いため、地球の外では役に立たないといわれています。

そんな中、光合成に頼らず植物を育てることで、より効率よく食料を生産し、確保する方法の研究が進み、注目を集めています。

実は光合成は効率が悪い

光合成は生物にとって欠かせない過程ですが、植物に降り注ぐ太陽光のうち、実際に有機物の生成に利用されるのはわずか1%程度で、そのエネルギー変換効率は決して高くありません。

人類が宇宙で自給自足生活を営むためには、できるだけ少ない資源で食料を生産することが不可欠になるため、光合成の効率の悪さは昔から大きな問題とされてきたのは、ここに原因があるためです。

また、地球上の人口が増加し、同じ面積の土地からより多くの食物を生産する必要が生じている今、エネルギーの効率的な利用は重要な課題です。

人工光合成は自然光の4倍効率が良い

そこで研究チームは、生物による光合成を「人工光合成」と呼ばれる人工的なプロセスに置き換える方法を提唱しています。

以前から人工光合成は太陽光や水やCO2を、別の化学物質に置き換えるさまざまなアプローチが提案されていますが、今回の研究では、人工光合成システムを一般的な食用作物の栽培と組み合わせる初めての試みです。

実験では、太陽電池からの電流を利用し、CO2や水から酸素や酢酸塩を生成する2段階の電気分解システムから緑藻や、キノコを作る菌類、栄養酵母に人工的な光を与えました。

その結果、どの植物も、太陽光や光合成由来の炭素がなくても、暗闇の中で「酢酸塩」を取り込んで成長することが明らかになりました。

さらに、光合成と比較すると、人工光合成を利用した緑藻は、約4倍の効率で太陽エネルギーをバイオマスに変換し、酵母はエネルギー効率が約18倍も高いことが明らかになりました。

品種改良が必要な植物もある

ところが、全ての植物が太陽光のない環境において、酢酸塩だけを栄養価に成長するには課題が多いこともわかっています。

例えば、レタスを使った実験では、酢酸塩が多すぎると植物の成長が阻害されることが示されており、酢酸塩に耐性のある品種への遺伝子改良が必要だという見方もあります。

今世界では食糧危機が叫ばれており、効率の良い栽培方法の研究が盛んに行われています。今回もその流れを汲んでいるとはいうものの、遺伝子組み換えの必要も指摘され、実用化には時間がかかるとみられています。

しかし、人類の危機ともいわれる大きな問題を解決するためには、どんな方法でもまずは試用し、可能性を探ることが求められています。

引用画像:
https://www.nature.com/articles/s43016-022-00530-x

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