ニュー・シネマ・パラダイスは、世界的に大ヒットした1988 年公開のイタリア映画です。監督はジュゼッペ・トルナトーレ。
日本では、1989 年12 月に東京・シネスイッチ銀座で単館ロードショーで始まり、小規模での公開でした。しかし、同館で40 週に及ぶ異例のロングラン上映となる大ヒットを記録しました。
日本国内における単一映画館での興業成績では、未だに破られていない、最大動員数です。
中年を迎えた映画監督が、映画に魅せられた少年時代の出来事と青年時代の恋愛を回想する物語。感傷と郷愁、映画への愛情が描かれた作品である。
後述の劇場公開版が国外において好評を博し、しばらく停滞期に入っていたイタリア映画の復活を、内外一般に印象付ける作品となった。
映画の内容と相まってエンニオ・モリコーネの音楽がよく知られている。
引用:ウィキペディア(Wikipedia)
世界最高の脚本とも称えられた、このニュー・シネマ・パラダイスのヒットしたポイントを解説していきます。
「神話の法則」
ヒット映画には、この「神話の法則」がよく使われています。
有名な映画には、スターウォーズなどのハリウッド映画などでよく使われている型です。
1.日常の世界
2.冒険へのいざない
3.冒険の拒絶
4.賢者との出会い
5.第一関門突破
6.敵との戦い・仲間との出会い
7.最も危険な場所への接近
8.最大の試練
9.報酬
10.帰路
11.復活
12.帰還
これが神話の法則の型です。
神話の法則とは、端的に言うと、
・主人公が困難に遭う
・それを乗り越える
・達成する
たとえ分かっていても、最後に爽快感を味わいたいのが人間です。
最初は、牧歌的でほのぼのとした外界から隔絶された村と、村で唯一の映画館を楽しむ村人たちの様子、主人公の少年と老人の映写技師との日常が長すぎるくらい丁寧に描写されています。
イタリア映画の特徴のひとつとして、美しい風景がイタリアの売りです。
その風景を活かした映像美がふんだんに盛り込まれています。日常でありながらイタリアの風景の美しさが際だっています。
日常の世界、外の世界から隔絶された村と世界の入口は、村唯一の映画。それを楽しむ村人達。
↓
ある日、映写機の火災事故が発生
↓
主人公の少年トトが目を負傷した老人に代わり、村で唯一の映写技師になる
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青年に成長したトトが恋に落ちる
↓
恋に破れ、そして徴兵される
↓
徴兵から帰還し、映画の勉強をするために、老人からの後押しもあり、旅立つ
↓
長年故郷に帰らなかったが、老人が死んだと連絡を受け故郷に帰還する
大筋は、ほぼ神話の法則を踏襲しています。
神話の法則がなぜ人を魅了するのかというと、人生と共通する部分が沢山でてくるからです。共通する部分があると、人は、ストーリーや主人公と自分の人生を重ね合わせてみるようになります。
共感とは、人を引きつけ離さない魅力があるのです。
ニュー・シネマ・パラダイスでは、この神話の法則がストーリーに組み込まれていますが、激しさや暴力などを取り入れず、あくまで日常の生活をベースに物語は淡々と進んでいきます。
静かな日常の中に神話の法則をあてはめながら共感とストーリーに膨らみをもたせています。
娯楽性は求めていない、芸術性こそが最高
イタリア映画は、娯楽性より、芸術性を前面に出す特徴があります。
映画は娯楽です。しかし、イタリア映画においては娯楽性を出さず、日常やリアルな生活感を表現することに長けています。
というのも、イタリア映画には、しばらく衰退している時期がありました。
その原因は、娯楽性を取り入れてしまったからです。1980 年頃がイタリア映画の衰退期でした。
娯楽である映画のはずですが、イタリア映画においては娯楽性を求められておらず、日常やリアリティのあるものがいいというのは、何とも逆説的です。
そんな、一時期衰退していた、イタリア映画を復活させたのが「ニュー・シネマ・パラダイス」です。
芸術性とリアルな日常を描き、さらに、神話の法則に沿ってストーリーに膨らみもたせ、共感して引きつけられる内容となりました。
ただし、トトが30 年間、故郷に帰らなかった間の描写が全くすっ飛ばされているのが残念というか、もう少し何か描写が欲しいところです。
冒険をしている最中や、挑んでいる様子などの描写が足りないようにも感じられます。しかし、そのあたりを描写すると娯楽性が高まるのを防いでいるのかもしれません。
イタリア映画の歴史的背景
イタリア映画は、「愛と人生」をテーマにし、極端に現実離れをしていないのが特徴です。そして、イタリアは観光立国なだけあり、とても綺麗な建物や土地が数多くあります。
その美しい風景を前面に押し出した映画が数多くあります。そのせいか、現実と映画の世界がかなり近いです。
イタリア映画が現実表現を得意としている歴史的背景として、ムッソリーニの独裁政権の影響を受け、プロパガンダ(政治宣伝)映画が製作されていました。
ただし、幸運なことにヒットラーのドイツ映画ほどは、翻弄されずに済んでいます。
さらにイタリア映画を語る上で重要な運動であるネオレアリズモは、ファシズム体制に抵抗する形で生まれました。
なお、ネオレアリズモの映画とは、内戦による恐怖と破壊からの復興に取り組むイタリア社会の問題を現実的な視点で描いたものです。
しかし、ネオレアリズモの映画は、長続きはしませんでした。
理由は、あまりに内省的で貧しさの現実描写があまりに容赦なかったからです。
しかし、ネオレアリズモの映画は、現実を徹底的に追求するというイタリア映画の現実を表現する技法の礎となりました。
1970 年代終わりから1980 年代半ばにかけて、イタリア映画は衰退してしまいます。理由は、世界をリードしてきたイタリア映画監督が相次いで亡くなったことやアメリカ映画の台頭でした。
しかし、80 年代にかけて、イタリア映画は復活し始めます。
それを証明したのが「ニュー・シネマ・パラダイス」の1989 年にカンヌ国際映画祭審査員特別賞、アカデミー外国語映画賞を受賞です。
これにより、イタリア映画の完全復活を世界にアピールしました。
現実を表現しているが、これはやはり映画の世界
イタリア映画は、現実との距離が近いと言いましたが、しかし、現実ではなくこれは映画です。もちろん、現実では起こりえないことも映画の中で表現されています。
映画は、現実の世界ではありません。映画の力には魔法があります。
たとえば、映画館に入りきらなかった観客のために、映写技師の老人アルフレードが映写機の反射板をひねって、外の広場の壁に映画を映し出すシーン。
その機転は、素晴らしいものの、ピンと一瞬であわせたり、そもそもそんな事はかなり不可能に近い神技ではないでしょうか?
それから、青年時代のトトが野外上映の合間に、恋の相手エレナが目の前に現れてほしいと願ってこのようなセリフを口にします。
夏はいつ終わる
映画なら簡単だ
ディゾルブして雷雨
さっと夏が去る
その直後、寝そべったトトの眼前に通り雨と雷鳴の中、恋人エレナが現れて熱いキスを交わす、というかなりベタな展開です。
しかし、野外上映していた映画の演出とそれにシンクロしたトトの状況が、映画の魔法を感じるシーンであると言えます。
ちなみにディゾルブとは、前の画面が消えていき、次の画面と溶け合うように入れ替わること。
しかし、『ニュー・シネマ・パラダイス』のこの雷雨のシーンは、ディゾルブ自体は使われていません。
イタリア映画は、現実離れしていないのが特徴でしたが、このニュー・シネマ・パラダイスでは、映画の魔法も取り入れています。
劇中44 本の映画と自由すぎる観客
主人公トトは世界的に有名な映画監督になるという設定です。
なお、映画名でもあるニュー・シネマ・パラダイスとは、村で唯一の映画館の名前です。
映画を愛し、幼い頃から、映写技師としてずっと村人達のために滅私奉公に近い形で映画に少年時代や青春を捧げてきました。そんな少年を育てたのは、沢山の映画です。
劇中では44 本の映画が登場しました。
映画館をモチーフにした映画ですが、それでもかなりの数です。トルナトーレ監督のイタリア映画や他の映画に対するリスペクトが込められているのです。
ところで、映画を鑑賞する村人達の鑑賞マナーは、とにかく悪すぎて呆れてしまいます。
大笑いする、野次をとばす、つばを吐く、タバコを吸う、授乳している、大声でしゃべるわめく、飲酒しているなど、呆れてしまう村人達の鑑賞マナーです。
こんな様子は、日本の昭和時代にみんなでテレビを観ていた頃に似ています。みんなで娯楽を共有している様子はノスタルジーにあふれています。
ノスタルジーは、共感をよびます。2005 年にヒットした「ALWAYS 三丁目の夕日」の昭和の人情に通じるところですね。
老人と子どもの組み合わせ
長い人生を生きてきた人生あと少しの老人。未来の希望にあふれ、生きてきた人生がまだ少しだけの子ども。その組み合わせのヒット映画は数多くあります。
少年トトの父親は、戦争で生死不明です。そんなトトに対し、老人アルフレードは父のように少年の成長を見守り、そして師匠として映写技師の技術を伝授しました。
老人と子どもの組み合わせにおいて、伝承はよくある設定です。老人と子どもの温かい交流が観客をほのぼのした気持ちにさせます。
この、ほのぼのとした交流の様子がずっと続くのかと思いきや、突然危機が訪れます。
炎に包まれた映画館の中から、大柄な老人を小さな少年が引きずって救助するというシーン。子どもを大人が命がけで救出するという状況はよくあるものの、これはかなり意表をつかれました。
おそらく、現実では、この様なことはまずありえないでしょう。現実離れをしないイタリア映画の中において、かなり斬新です。
その事故で老人アルフレードは目を失明し、トトは幼いながらも映写技師として家計を助ける為に働きます。
長らく映写技師として働き、青春時代をずっと働いてすごす羽目になりそうなトトに老人アルフレードは、トトに檄を飛ばします。
映画の勉強をしたいと思い悩むトトのその背中を押すためにアルフレードが言ったセリフ、
「この場所から出ろ。」
「俺のようになるな」
「人生はお前の見た映画とは違う。自分のする事を愛せ。子供の頃、映写室を愛したように」
という言葉が印象的です。
共感を呼ぶステップ
ニュー・シネマ・パラダイスには、
・神話の法則
・ノスタルジー
・「愛と人生」をテーマにしたリアリティの追求
・老人と子ども
これらによる、人々の共感を誘うポイントが自然に組み込まれていました。
共感を呼び起こすステップはこれらがポイントとなっています。また、映画という娯楽でありながら、イタリア映画の強みである。
・娯楽性を排除し、芸術性を追求する
という強みを前面に出したことも、ヒットの要因ではないでしょうか?
イタリア映画ならではの強みを理解し、それにこだわったことで、イタリア映画のファンやそうではない大衆にも響いた映画になったのでしょう。
ハリウッド映画の華やかさや強さ、日常離れした世界につい目を奪われがちです。
しかし、ヨーロッパやイタリア映画には、「愛と人生」をテーマにした、人の感情や共感にうったえかける名作が数多くあります。
共感を誘うものは何かを映画鑑賞で肌に触れられるのは、興味深いです。