ラッパのマークの正露丸というと、日本では広く知られている一般的な胃腸薬ですが、これが実は世界初のアニサキス特効薬となる可能性が濃厚になってきました。
刺し身好きにとって恐怖の寄生虫アニサキス
日本人にとっては欠かせない食文化である「お刺身」。しかし、サバやカツオといった魚介類にはアニサキスという1~3cmほどの厄介な線虫が寄生しています。
このアニサキスをそのまま食べてしまうと、奴らは胃や腸の粘膜に頭を突き刺して暴れまわり、激しい腹痛やアレルギー症状を起こします。
ひどいときには消化管の壁を食い破って腹腔へ入り込んだ症例も存在しています。
このアニサキス症の被害は、年々増加傾向にあり、日本では2018年に報告された食中毒の症例の35%がアニサキスによるものだったといいます。
しかも現在、このアニサキスを殺す特効薬は存在しないとされており、体内に入り込まれた場合、病院で内視鏡を使って外科的な方法で摘出してもらうしかありません。
そんな話を聞くと、私たちも安心して「お刺身」が食べられなくなってしまいそうです。
正露丸はアニサキスを確かに殺している
ところが、実は2011年に、正露丸でアニサキス症が緩和されたという2つの症例が報告されます。
「2つのケースで、正露丸を経口摂取したアニサキス症の患者が、数分で強い上腹部痛を鎮静化した」と報告している。
他、試験管実験でも正露丸に曝露したアニサキスの幼虫が活動を抑制させたと報告していました。
ただ、この時点では完全にアニサキスに正露丸が効くことを証明できてはいなかったため、世の中では半信半疑に聞いている人がほとんどです。
「ひょっとしたら応急処置にはなるのかもね」、というニュアンスで伝えられるだけでした。
そこで今回は、死んだ組織に反応して青色に染まるというトリパンブルー染色液を使ってアニサキスの生死判定を行う実験をしたのです。
研究では通常服用量の正露丸を溶かした液にアニサキスを30分浸し、活動の停止を確認してからトリパンブルー染色を行いました。
するとアニサキスは濃い青色に染まったのです。これはすなわち、正露丸によってほとんどのアニサキスが死ぬことを示しています。
また、生きたアニサキスは胃液の消化酵素に分解されることがないため、体に入ると1週間近く生存し続けます。
しかし、正露丸液に30分浸したアニサキスは、胃液と同じ濃度の消化酵素(ペプシン)に浸した際、24時間以内に分解が始まったのです。
これらの試験管実験の結果からは、アニサキスの幼虫が、広く入手可能な胃腸薬である「正露丸」の通常用量を経口摂取するだけで、殺すことができる可能性を示しています。
研究者はこの正露丸のアニサキス殺虫効果は、正露丸の主成分である木クレオソートが、アニサキスのアセチルコリンエステラーゼという酵素を特異的に阻害するからと予想しています。
正露丸は、もともとは「征露丸」と表記された日露戦争時代に遠征する兵士に持たせた歴史ある古い薬です。
それが現代でもまだ見つかっていなかったアニサキス症の特効薬だったとすると、本当に驚きです。
引用画像:
https://www.seirogan.co.jp/products/seirogan/
昭和16年7月24日・朝日新聞
参考サイト:
高知大は正露丸溶液がアニサキスを殺していると報告。アニサキスは魚介類に潜み、摂食すると胃や腸の粘膜に頭を突き刺し腹痛を引き起こします。殺虫法が不明でしたが、その治療薬が実は既に日本に存在していたんです。