他人の遺伝子を活用する時代がくる。

私たちの体は、生まれてから亡くなるまでに常に変化が起きています。そのため、歳を重ねるにつれ、ふとした時に「老化しているのではないか」と感じることがあるかもしれません。

老化を加速する要因としては古くから喫煙やアルコール、運動不足などの要因が知られていましたが、近年の老化研究によって、遺伝子が老化速度に与える影響が非常に大きいことが明らかになりました。

健康な90代は特別な遺伝子を持つ

心臓を良好な状態に保つために重要なBPIFB4と呼ばれる遺伝子がありますが、この遺伝子に特殊な変異(LAV)が起きるとLAV-BPIFB4と呼ばれる「長寿遺伝子」になることは研究者の間で広く知られています。

そんな中、イタリアのIRCCS MultiMedica病院の研究者たちは、90代以降でも元気に生きている人々の多くには、この変異が生じて長寿遺伝子が存在することを発見しました。

高齢マウスは10歳分若返った

研究では、この長寿遺伝子を老齢マウスの心臓に移植する実験を行いました。その結果、長寿遺伝子を組み込まれた老齢マウスは心臓に新しい血管の形成され、血流や心血管の状態、心室の機能が改善したことがわかりました。

また細胞レベルでは、老化した細胞の数が減少しており、タンパク質の製造能力も回復し、老化現象の一種である心筋の線維化レベルも低下しました。

これは、人間の長寿遺伝子を組み込まれた老齢マウスでは心臓の若返りが起こり、構造や機能が大きく改善していることを示します。

また若返りの影響を人間の寿命に換算してみたところ、若返り効果は人間の10歳分に相当することが明らかになりました。

ヒトの心臓細胞も若返る

さらに、研究では、長寿遺伝子の効果を高齢患者から摘出された心臓細胞を用いて調査を行った結果、マウスの心臓で起きたことと同じような、心臓細胞の若返りが起きていたことが明らかになりました。

これによって、ヒトの老化に伴うさまざまな症状に対しても長寿遺伝子の効果があると考えられます。

研究者たちは将来的に、長寿遺伝子を患者の細胞に組み込む治療や、長寿遺伝子から作られるタンパク質を用いることで、心疾患をはじめとするさまざまな病気の治療につながると期待を寄せています。

このような研究が進めば、先天的な遺伝子を持つ人の恩恵を受け、誰もが健康に長生きできる時代がやってくるのかもしれません。

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