世界の人口は増え続けており、2050年までに100億人に近づくと推定されています。栄養の観点から世界の人々を養う場合、最大56%食糧生産を増加する必要がありますが、今のところ不可能に近いとの見方もされています。
しかし、2022年10月、アメリカの海洋学会が発行する専門誌『Oceanography』に、2050年までに100億人を養うことができる方法が提唱され、話題を集めています。
藻類が食糧危機を回避する
その方法とは、畜産の代わりに栄養価の高い藻類を栽培すれば、私たちが必要とする栄養素の一部が供給され、世界の食糧危機を回避できるかもしれないというものです。
さらに、畜産と比較して二酸化炭素排出量が低いため、環境に負荷をかけずに栽培ができ、畜産よりも非常に狭いスペースで栽培ができる点もメリットがあります。
5gの肉を作るために40万円かかる
そこで早稲田大学の研究チームは、クロレラなど藻類を太陽光で生育させ、そこから栄養を抽出し、肉を作るために必要な培養液に利用する研究を進めています。
これまでは培養液に穀物の栄養や、家畜の血清を使っていたといいますが、藻類を用いることで、その廃液を繰り返し藻類の栄養に使う循環型生育が実現されます。
さらに、施設や設備の導入ができた場合、乾燥地など環境が厳しい土地でも生産できる可能性も高まり、アフリカなどの砂漠地帯での栽培も可能になるといいます。
しかし現在、従来の方法で培養肉5gを作った場合、A5ランクの牛肉の値段を超える約40万円の費用がかかり、実用化に向けては大きな課題が残っています。
それでも生で食べられる肉を目指す
ステーキ肉には筋肉の細胞をつくる必要があることから、筋肉の細胞を増やすことに断念した海外ベンチャー企業の作る培養肉の多くは、ミンチ肉が占めるといわれています。
そんな中、研究チームは、おいしさを引き立てる肉独特の香りを筋肉の細胞で作ることに着目し、安価で品質の高いステーキ培養肉への挑戦を続けています。
さらに、ユッケや牛刺しなど、肉の生食は食中毒のリスクが高いことから、家庭で食べることはほとんどないのが現状です。
しかし培養肉は、完全クリーンで、雑菌がない肉ができるため、研究チームは生のまま食べることができる肉の生成も目指し、食の可能性を追求していくとみられています。
日本の食料自給率の算出方法に議論はあるものの、いずれにしても諸外国と比較すると低いことは知られており、家畜も外国産の飼料を使っていることから、実質自給率は9%と低いことが現実です。
さらに最近の物価高騰により、食料安全保障の観点からも、全てを日本で育てることが理想ですが、簡単なことではありません。
培養肉は法外なコストがかかりますが、少しでも国内生産を進め、一部の食料だけでも輸入に頼らず、まかなえるよう、何かしらの方法を模索していくことが重要なのかもしれません。
引用画像:
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20230224post-485.html
参考サイト:
10月5日、海洋科学専門誌『Oceanography』に、2050年までに100億人を養うことができる方法に関する論文が掲載された。畜産の代わりに藻類を栽培すれば、世界の食糧危機を回避できるかもしれないそうだ。
「藻からお肉ができるの?研究者に培養肉について聞いてきた!(前編)」に引き続き、科学コミュニケーターの増田・平井・片岡が、早稲田大学先進理工学研究科(2023年4月より東京都市大学医用工学科に移籍)で培養肉を研究している准教授の坂口勝久さんにインタビューしてきたことを紹介していきたいと思います。前編では培養肉...