「これで明るくなっただろう?」
成金がお札に火をつけている様子が歴史の教科書にあったのを覚えていますか?
さすがに現代ではそんなことをする人はいないかと思いきや、何と3億円を「燃やす」男がいるとのことです。
アート界の常識を破る
イギリスでもっとも物議をかもすアーティスト、ダミアン・ハースト。
1990年代の英国で頭角を表したヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBAs)の中でも、特に型破りな作家として一躍脚光を浴びるようになりました。
動物のホルマリン漬け、浮遊するバスケットボール、錠剤が並んだキャビネット……
ショッキングな作風の作品は、超高額で取引されることでも知られています。
ハーストが頻繁に取り上げるテーマは、人の死、信念、価値観などをめぐる問題です。
そんな彼ですが、今回は自身の大量の作品を焼却することで、美術作品の「価値の移行」を見せつけました。
ロンドンにあるダミアン・ハーストのギャラリーから煙が立ち上がりました。1000点におよぶハーストの代表作シリーズ「スポット・ペインティング」が消え去りました。
1作品あたりの売値は2000ドル(約29万円)で、単純計算しても200万ドル(約2億9000万円)相当のアートが数時間で灰となったことになります。
価値の移転を狙う
これは自ら企画したイベントです。
彼が2015年から取り組んでいる「TheCurrency(=通貨)」プロジェクトの一環で、物質的なアートワークか、デジタルの作品か、どちらの方が価値が高いのかを実験的に問いました。
2021年7月にNFTとして出品された1万点の「スポット・ペインティング」の購入者は、作品をNFTとして保持しています。
もしくはフィジカルな作品へと交換するか、どちらかを選択することを求められました。
結果としては、5149点が実物のアートワークへと交換され、4851点がNFTとして残存。
そして今回、交換されずに残った実物のアートワーク4851点を焼却するというプロジェクトの最終段階が話題を呼びました。
フィジカルな作品を燃やすことで、NFTへの変換を完了させているのです。
デジタルであれフィジカルであれ、美術品の価値を定義することは難しい。
しかしながら、価値が失われるこということではなく、焼却された瞬間に価値がNFTに移行されます」とダミアン・ハーストは言います。
そして1000点目の作品が焼却されると、歓声と拍手が巻き起こり、おおよそ2時間でイベントは終了しました。
残りの3851点のアートワークはギャラリーでの展示期間中に日々焼却されていきます。
ダミアン・ハーストの作品は、すでにNFT作品としてセカンダリーマーケットで取引されています。
データによると、ひとつのNFT作品が最高で17万6779ドル(約2600万円)の売値をつけて取引されています。
また焼却イベントを開始する10月11日の時点で、売値の平均は2万742ドル(約300万円)を記録していて、最初の出品価格の10倍以上へと跳ね上がっています。
さらに4337回の売買を経て、トータルで8995万9909ドル(約132億円)の売上を生み出している現状です。
ときには業界の常識を破り権威に逆らい、つねにチャレンジしているダミアン・ハースト。
果たして今後どのような価値を生み出していくのか、注目するアーティストのひとりではないでしょうか?
参考サイト:
この春、東京の国立新美術館で「ダミアン・ハースト 桜」展が開かれた。日本人がこよなく愛する桜の時期に合わせた個展を訪れ、美術館でもう1つの“お花見”を楽しんだ人もいるだろう。しかし、ハーストといえば何かと騒ぎを起こすアーティストでもある。時に酷評され、非難の的となった彼の作品を改めて振り返ってみよう。
イギリスでもっとも物議をかもすアーティストのひとりである、ダミアン・ハースト。彼の新しいプロジェクトでは、自身の大量の作品を焼却することで、美術作品の「価値の移行」を見せつけた。