イギリスの首相がわずか45日で辞任した。

イギリス3人目の女性首相であり、女王エリザベス2世に任命された最後の首相でもあるリズ・トラスが2022年10月20日、辞任を表明しました。

9月6日の就任からわずか45日しか経っておらず、実質的な在任期間は史上最短です。

現在の状況から「首相の任務を遂行することができない」と述べていますが、一体なぜこのような事態に追い込まれたのでしょうか。

「第2のサッチャー」の印象を利用した政策

2022年7月に、ジョンソン首相がコロナ禍における官邸でのパーティー疑惑で退陣を余儀なくされた後、トラス氏は党首に選出されました。

するとトラス氏はイギリスの初の女性首相マーガレット・サッチャー氏を思わせる「減税」「改革」のキーワードを使った政策を打ち出しました。

それは9 月23日に打ち出された大型減税案「ミニ・バジェット(小さな予算)」です。

トラス氏の友人でもあるクワジ・クワーテング財務相が自信たっぷりに発表したこの案では、過去半世紀で最大とされる約450億ポンド(約7兆円)が計上されました。

所得税の最高税額の引き下げ、法人税率の引き上げ凍結、銀行員の賞与の上限規制の撤廃などが盛り込まれた政策は、トラス氏の「減税公約」を形にしたものだといわれています。

国民から富裕層優遇政策だと批判を受けた

インフレ率が10%近くまで上昇し、昨年からの光熱費の急騰にも悩むイギリス国民からすると「成長重視で経済を活性化させる」という政策はピンとこないものでした。

特に「所得税の最高税額の引き下げ」については、累進課税であるため、所得が多い方が減税効果が高い「金持ち優遇」だと多くの国民から批判を受けました。

https://agora-web.jp/archives/220924050353.html

世界の市場からもひんしゅくを買った

これほど大規模の減税の財源確保は市場にも不安を与え、大きく影響を及ぼしました。

それは通貨、株式、国債が同時に売られる「トリプル安」の誘発です。

9月27日には国際通貨基金(IMF)が大型減税案について「財政悪化につながりかねない」と政府に再考を要求しました。

更に翌28日にはイングランド銀行が長期国債を支えるための緊急対策を発表しました。

このようにトラス政権の減税案は金融市場に混乱を引き起こし、世界の市場のひんしゅくを買う事態になりました。

身内から三行半が突きつけられた?

国内外の批判を無視できない状況に陥ったトラス氏はこの政策の間違いを完全に認め、経済政策のほぼ全ての撤回を表明しました。

政権発足からわずか1ヵ月余りでの方針転換に、与党内からも不満の声が高まっていたことは明らかです。

特に保守党と最大野党労働党の支持率が30%に開き「トラス氏が党首では選挙に勝てない」という、トラス氏への進退問題の議論も更に加熱していました。

そんな中、10月19日、スエラ・ブレイバーマン内相の辞任は、トラス氏辞任の引き金になったとみられています。

内相辞任の書簡によれば、個人のメールで公文書を送信した「閣僚規範違反」による引責辞任だと説明されています。

しかし実際には経済を混乱させても責任を取ろうとしない「首相への批判」との声もあがっています。

こうしてトラス氏は身内から”三行半を突きつけられたような形”で辞任に追い込まれたといっても過言ではありません。

バイデン大統領も政策を批判した

また、アメリカのジョー・バイデン大統領はトラス氏が財政政策を撤回した際に「予測可能なことだ。間違いだと思ったのは私だけではないだろう」と発言しています。

トラス政権の政策の中核をなす経済理論「トリクルダウン」に、バイデン氏は以前から批判的だったといいます。

しかし、アメリカの大統領がイギリスの政策に踏み込んで発言することは異例です。

こうした世界のトップリーダーによる発言は極めて重く、今回の辞任に何からの影響を与えたとの見方もされています。

涙目になるほど光熱費が急騰し、生活に苦しい人がたくさんいるーそんな時期に首相に就任した挑戦はかなり難しいものだったことは確かです。

しかし、マーガレット・サッチャーを崇める彼女にもかかわらず「絶対に変節しない鉄の意志の女性宰相」になるための方向性を見誤っていたことは事実なのかもしれません。


画像引用元:
https://www.bbc.com/japanese/63333882
https://www.bbc.com/news/world-63276374

参考サイト: