メタバースなどバーチャルな空間でのコミュニケーションは、現在、視覚や聴覚だけに限られています。
しかし相手が目の前にいなくても、触れ合う温もりが欲しいと思ってしまう人は少なくないのではないでしょうか。
「相手を抱きしめる」「相手に抱きしめてもらえる」ような触覚を、バーチャルな空間でも楽しめる世界は、到来するのでしょうか?
欲望を実現させる「タンジブル」
アメリカ・カリフォルニア州を拠点とする会社「タンジブル・テレポーテーション」は、離れた相手とハグを共有できる首掛け型クッション「タンジブル(Tangible)」を開発しました。
一見、間抜けなアイテムのように思えますが、実は開発者の切実な願いが込められているようです。
タンジブル・テレポーテーション社の創設者兼デザイナーであるアクシャイ・ディナカール氏が開発したのは、遠く離れていてもハグの感覚を共有できるクッション「タンジブル」です。
タンジブルは首から腰にかけて巻き付けるタイプのクッションであり、触り心地の良い柔らかな外部素材と内蔵された電子機器から成り立っています。
離れた場所にいる人が互いにタンジブルを装着し、スマホまたはタブレット機器を使ってBluetooth経由でペアリングできます。
そして没入型タッチセンサーとヒートパッドにより、タンジブルを握る強さや時間を記録。相手に「リモート・ハグ」として送信するのです。
これにより、「心地よい圧迫感」「なでるような振動」「体温のようなぬくもり」を伝えられます。
互いにタンジブルを抱きしめれば、まるで本当に抱き合っているような感覚を味わえるのです。そしてタンジブルを利用すれば、メタバースがよりリアルな世界に成長するはずです。
VRの中で特定の相手に撫でてもらったり、ハグしてもらったりと、これまでにないコミュニケーションが可能になります。
動画配信サービスの配信者も視聴者にとって遠い存在でしたが、その垣根もなくなります。
「配信者と抱き合う」という欲望を実現させることさえ可能なのです。とはいえ、このアイテムがかなり間抜けな道具に見えてしまう人も多いでしょう。
そんな人は、このタンジブルに込めた、開発者の切実で真剣な願いを聞いたら見え方が変わるかもしれません。
「母との悲しい別れ」が開発の原動力に
アクシャイ・ディナカール氏は、母親をがんで亡くすという悲痛な経験をしました。ところが母親の入院中、彼は十分なコミュニケーションを取ることができなかったといいます。
なぜなら新型コロナウイルスの感染対策で、ディナカール氏には訪問制限がかかったからです。闘病生活を送る母親をハグして励ましてあげることさえできなかったのです。
彼にとって従来のビデオ通話は、「イライラするほど二次元的で、母親の存在を余計遠くに感じさせるもの」だったようです。
そして母親を失ったディナカール氏は、同様の経験をしている世界中の家族やカップルのために立ち上がることにしました。
タンジブルが開発されたのは、遠く離れた家族や恋人の存在をよりリアルに感じさせるためだったのです。
そして、この思いは実験で多くの人に伝わり、利用者たちは高い満足感を得られたようです。
現在、タンジブルはクラウドファンディングサービスKickstarterで支援募集中です。179ドル(約2万6000円)の支援で、タンジブル通常サイズを2つ入手できます。
ディナカール氏の願いどおり、タンジブルは寂しさを感じている世界中の人々の「心の距離」を縮め愛する人との繋がりを体感できるものとなるはずです。
もちろん、メタバースや配信サービスで「推し」と抱き合うために購入しても良いでしょう。
引用画像:
Tangible Teleportation
参考サイト:
首掛けクッション「タンジブル」は遠隔の相手にハグの感触を伝えるアイテム。これがあればバーチャルな推しとも抱き合えるかも。ちょっと見た目は間抜けですが開発の裏には悲しい動機も…
Feel physically present with your far-away loved ones through a magical Teleportation Call.
ウソみたいな話ですが、好きな人とのビデオ通話中にハグされている感覚を味わえるペアクッション「Tangible」 好きな人とのビデオ通話中にハグされている感覚を味わえるペアクッション「Tangible」の先行販売プロジェクトが今秋、米クラウドファンディングサイト「Kickstarter」で公開されました。