2021年、新型コロナウイルスへの対策が安定し始めたことで、世界の経済活動は徐々に通常を取り戻し始めました。
しかし、産業活動も通常レベルへの復帰を目指そうとしたところ、部品や材料が入手できず、電子機器を中心に、十分な生産ができないことが発覚したのです。
半導体の製造には時間がかかる
さまざまな部品や材料が不足した中で、特に「半導体不足」は大きな問題になりました。それは、半導体の製造納期が平均3ヵ月と長いことが影響したといわれています。
さらに製造能力を増強するためには、約2年かかることなど、急激な需要の変化に対応できないことが原因だとみられています。そんな中、半導体を改良し、安価に、環境にも配慮した品質を得た研究結果が新たに発表されました。
100倍の通電性を実現した
日本に拠点を置く産業技術総合研究所は、有機半導体デバイスに流れる電流を最大100倍に増加できる技術を開発しました。
その方法は、コーヒーなどに含まれる「カフェ酸」を用いて、半導体の構造である薄膜層を形成することです。
実際にカフェ酸の薄膜層を形成し、電流を流したところ、カフェ酸の薄膜を形成しない場合と比べて電流が最大で100倍に増加し、有機半導体の性能が向上することがわかりました。
現在、有機半導体は、有機ELディスプレイをはじめ、低コストで高い光起電力を得る有機太陽電池などに利用されています。
この技術は基板の種類に依存せず使えることも明らかになり、今後あらゆる有機半導体デバイスの電極に応用できるとみられています。
カフェ酸で環境問題に貢献する
カフェ酸(コーヒー酸)とは、植物細胞を形成する際に必須の物質です。その名の通りコーヒーをはじめ各種穀物、ブドウ酒、りんご、ケール、カリフラワー、キャベツなど多くの植物および植物性食品に含まれています。
従来、薄膜層の原料は金属資源を多く含まれており、さらに廃棄する時に環境に対して負荷が発生することが課題として挙げられていました。しかし、自然由来の素材を使うことによって、環境への負荷が低いメリットもあります。
有機半導体デバイスの材料を安価で入手性の高い植物から得られ物質に置き換えられることで、製造コストの低下、ひいては販売価格の引き下げにも繋がる可能性があります。
この結果を素直に受け止めるならば、手放しで歓迎できる研究成果なのかもしれません。研究者も半導体も、コーヒーで仕事の能率が上がるならうれしいことです。
引用画像:
https://www.techno-edge.net/article/2022/12/09/597.html
参考サイト:
産総研は、有機半導体デバイスに対してコーヒーなどに含まれる「カフェ酸」の薄膜層を形成することで、デバイスに流れる電流を最大100倍に増加できる技術を開発したと発表しました。