稲森氏はJALの幹部におしぼりを投げつけて怒った

稲盛和夫氏は言わずと知れた『たぐいまれな経営手腕と哲学』を通じ、産業界のみならず、広く一般の人にまで感化を与えた日本を代表する経営者です。

2022年8月24日90歳で亡くなりましたが、今もその死を惜しむ人が後を絶ちません。

そんな稲盛氏の功績は、京セラやKDDIを創業し、それぞれ1.5兆円、4.9兆円を超える大企業に育成しました。

倒産したJALの会長に就任すると、わずか2年8か月で再上場へと導きました。

その多岐にわたる活動に通底しているもの、それは「利他の心」でした。

安全のためには利益も大事

2010年1月に会社更生法の適用を申請し、経営破綻した日本航空(JAL)。しかし、破綻したはずなのに、社内には生ぬるい雰囲気が漂っていたとのことです。

そんなことから稲盛氏は、JAL幹部との会議があるごとに

「あなたたちは一度、会社をつぶした。本当なら今頃、職業安定所に通っているんだ」とおしぼりを投げつけ、怒りをあらわにしたそうです。

JALは、会社更生手続き中に聖域とされてきたパイロットや整備部門の人員までも削減。

さらに稲盛氏が考案した「アメーバ経営」の導入によって、コスト削減と売り上げアップを、全従業員一丸となって推し進めていきました。

JAL社員にも思いはあります。JALは、1985年8月12日にジャンボ機の墜落事故を起こしました。

この事故で520人が亡くなっており、JALのパイロットやCAは、安全に乗客を目的地へ送り届けることばかりが至上命令となっていました。

破綻前のJALは、利益が出ないから安全投資ができない状況に陥っていたのです。

稲盛経営の下で経営再建を果たし、きちんとした利益が出るようになって、JALの整備トラブルは激減していきました。

安全を犠牲にするコスト削減はあり得ませんが、安全を確保するためには、十分な利益が必要なのです。

判断基準は「利他の心」

JALの再建にあたってこんなことがありました。

JALは、アメリカン航空が中心のワンワールドというアライアンス(航空連合)に加盟していました。

ある日、ライバルのデルタ航空を中心としたスカイチームが「うちに鞍替えしないか、それにかかる費用も負担する」と言ってきました。

JALの多くの幹部もデルタ航空の申し出に賛同しました。

しかし稲盛氏は「今まで一緒にやってきたアメリカンを袖にして、ライバルに鞍替えするのは、人の道としていかがなものか」と言いました。

幹部たちに10日ほど考えてもらった結果、ここはやはり善悪で判断し、ワンワールドのままでいくと決めたのです。

この決定には、アメリカン航空の人たちがとても感激しました。

しばらくしてこの判断がJALにとっても正しかったことがわかりましたが、その判断の要は目先の損得ではなかったのです。

稲盛氏の経営は、企業内でもお客様へも利他の心があふれています。それは大小ありますが「人によかれ」とすることです。

ちなみに、JALのパイロットの機内アナウンスが、それまでの定型文から変化したそうです。

JALに乗ることがあったら、ぜひ注意深く聞いてみてください。

(トップ画像:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Kazuo_Inamori_2011_Heritage_Day_HD2011-71_(cropped).JPG)

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