Netflixにて独占配信されている、スペインで制作されたサスペンスドラマです。
物語のあらすじは、「教授」と呼ばれるリーダーとそれぞれ特技を持った8人の犯罪者が造幣局(ペーパーハウス)に立てこもり、大量の紙幣を印刷しようと駆け引きを繰り広げます。
2019年9月現在までは、シーズン3まで放映されており、造幣局編がシーズン1-2にまとめられています。
全編スペイン語ながら、その評判が口コミで伝わり世界的なヒットとなり、2018年に発表されたNetflixの収益報告資料で「史上最も視聴された非英語のシリーズ」とされたドラマです。
トップ画像 出典元:La casa de papel ‒ IMDb
アメリカや英語圏ではないドラマ
面白いドラマや映画は、アメリカが主に制作している。この概念は、長きに渡って全世界に染みついていたものでした。しかし、その固定概念を打ち破ったドラマとして注目されています。
ヨーロッパには膨大な才能のある人々がいますが、私たちはこのようなことをすることができ、スペイン、ポーランド、イタリアでこの作品を作ることができ、世界中で成功することができる。
引用:インタビューより
ペーパーハウスのアレックス・ピノ監督は、Netflixとドラマ制作の独占契約を結びました。
まさに、今後の期待の表れです。
テーマは「反逆」
強盗団がこのドラマの主軸なので、この時点で既に、正義の味方という概念はこのドラマには存在していません。
今までのドラマに多いのは、警察や公的機関が主軸であるものが多いし、結末も予想がしやすかったです。
正義と悪の対立という分かりやすい構図ならではです。しかし、このドラマは強盗団、社会的には完璧に悪者の立場から描いています。
クリエーターのアレックス・ピノは、銀行や政府に対する人々の懐疑論に関する暗黙の社会的メッセージから生じる視聴者の共鳴を見ていた
引用:Money Heist ‒ Wikipedia
視聴者は、銀行や政府に対して、実は懐疑的であることが、このドラマの人気の理由の一端であることがうかがえます。
ペーパーハウスの人気に対して、トルコの政治家が「テロリズム」の奨励と、「反乱の危険な象徴」だと警告を発したそうです。
政治の観点から見て、かなりの問題作であることがうかがえます。
強盗団のボスである教授は強盗計画の前準備として、5ヶ月間、徹底的に8人に講義を施します。その講義の前に、このような演説をしました。
「いいか、何年もかけて学校で学び、給料を稼ぐというのがごく普通のつまらん生き方だ5ヶ月が何だ。計画を練るのには・・・もっとかかった成功すれば一生安泰君たちも、子供たちもだ」
これは、「やりたくない仕事をやって生き延びてる現代人」への強烈はアンチテーゼを象徴しています。
「Bella ciao(さらば恋人よ)」が多用される理由
シーズン1の最後の方で、登場人物の教授とベルリンが盃(さかずき)を交わしながら「Bella ciao(さらば恋人よ)」を熱唱します。
それ以降、エンドロールや、ベルリンが射殺されるシーンでも流れました。つまりBella ciao はこのドラマのキーとなる曲です。
「Bella ciao(さらば恋人よ)」は、1943年から1945年まで続いた、反ファシスト党運動において歌われた。
作詞者・作曲者は共にわかっておらず、この楽曲はポー川の流域周辺にいた農民たちの間で、20世紀前半にかけて歌われていた「Alla mattina appena alzata」という名の民謡に基づいてできたものである
引用:さらば恋人よ ‒ Wikipedia
ファシズムとは「結束主義」のことを言い、「ファシスト」は、そのファシズムを主義とする人のことを言います。
Bella ciao は、反ファシスト運動で歌われていたことから、教授たちは「自分たちは反逆者である」という認識を持っていたのです。
ペーパーハウスは反逆者たちが主人公なので、そういうテーマだからこそBella ciao が何度も起用されていたのでしょう。
なお、このBella ciao は、2018年にヨーロッパ全体の夏のヒット曲となりました。
主人公が女性
強盗のジャンルは、荒々しく、粗野で男性目線の犯行のイメージがあります。
しかし、このドラマの主人公トーキョーという女強盗の目線とナレーションで強盗の荒々しく、粗野なイメージから登場人物達のそれそれの感情を上手く表現しています。
(なお、8人の強盗達にはコードネームとして世界の各都市の名前が割り振られている)
強盗の話のはずが、友情、愛、衝動的な感情などがコメディタッチでところどころに挿入されています。
また、5-10分で何かが起こる、演出がされているのでテンポよく視聴者を飽きさせず、物語に引き込んでいきます。
ペーパーハウスには、男性視聴者へのサービスなのか、綺麗な女性は、なぜかセミヌードだったり、ズボンを脱いでパンティー姿になっていたりします。
日本では考えられませんが、セックスのシーンがかなり激しいです。
しかし、女性が主人公だとエロの要素がきつくならないように演出できています。
このように、強盗という、ドぎつい犯罪のドラマですが、女性が主人公なので、粗野なイメージを和らげています。しかし、銃撃戦などのアクションシーンは、かなり見応えがあります。
主要キャラクターは全員問題あり
8人の強盗達は、教授がリクルートしてきたクセ者や犯罪者達ばかりです。強盗計画にのるくらいなので、まともな経歴の人間でないことは間違いないですね。
主人公の女強盗、コードネーム「トーキョー」。物語の語りべであり、33歳。
日本の首都名なのが、日本人の我々にすると嬉しいですね。
彼女はとある強盗事件のお尋ね者です。トラブルメーカーであり、教授から禁じられていたにも関わらず、リオと恋愛関係になります。
演じるのは、ウルスラ・コルベロ。年増だけれど、すごい美人です。
チームリーダーの「ベルリン」冷静で冷酷な性格の男。主に貴金属専門の泥棒。不治の病に侵されています。演じるのは、ペドロ・アロンソ。
人情味のあるおじさんの「モスクワ」溶射ランスなどの工業機械に精通している。元は炭鉱夫をしており、その技術を使って穴を掘って盗みを働く泥棒でした。演じるのは、パコ・トウス。
「モスクワ」の息子、「デンバー」腕っぷしが強く、ドラッグ中毒者。
すぐに頭に血がのぼる一方で、中絶を希望した人質モニカに対して中絶を思いとどまるよう説得するなど、心優しい面があります。
演じるのは、ハイメ・ロレンテ。
「トーキョー」の彼氏「リオ(デジャネイロ)」彼は18歳で、彼女のトーキョーとは15歳の年の差カップル。パソコンに強く、ハッキングが出来る。演じるのは、ミゲル・エラン。
「ヘルシンキ」「オスロ」双子の兄弟で、兵士担当。強いがその分、頭は弱い。家族思いで、家族へ送金するがそれがピンチを招いてしまう。
演じるのは、ダルコ・ペリッチとロベルト・ガルシア・ルイーズ。
脳天気で明るい女性「ナイロビ」歳は分からないけど、7歳の息子がいるのでおそらく彼女も年増。偽造の達人で、元麻薬の売人。演じるのは、アルバ・フローレス。
そして、チームのボスが「教授」彼は19歳からIDの更新がなく、謎の人物で正体不明。教授というだけあり、賢く知能は高いが、どこかオドオドしている雰囲気のある男。
これが強盗団一味の内訳です。
この強盗団には、こだわりがひとつあります。
それは、この強盗計画において「人殺しをしない、人を傷つけないこと」これが教授が出した絶対条件です。
人質をとるあたり、人権は完全無視しているものの彼らはこのことを厳守し、強盗計画を実行していきます。そして、人質達も、一見善良な市民達ですが彼らにも問題があります。
「モニカ」造幣局に勤務しているモニカは、上司との不倫で妊娠したことが発覚したばかりで、身重の体で人質になってしまいます。
しかも、デンバーとなぜか恋に落ちるなど、かなり無茶苦茶です。演じるのは、エステール・アセボ。
「アルトゥーロ」造幣局局長で、モニカの上司であり不倫相手。当初は、モニカの妊娠を認めないなど、身勝手な言動が目につくオヤジでした。演じるのは、エンリケ・アルセ。
「アリソン・パーカー」女子高校生で英国大使の娘。彼女はクラスメイト達にいじめられています。しかし、特技は狩り。演じるのは、マリア・ペドラザ
「ラケル・ムリージョ刑事」造幣局強盗事件を担当するネゴシエーター。ペーパーハウスの劇中では造幣局の中の話と、教授とラケルとのやり取りが中心となります。
シングルマザーで、前夫に家庭内暴力を受けていた過去があります。演じるのは、イジアル・イトゥーニョ。
以上が主要キャラクター達です。
犯罪者と一般市民の境とは何か、一線を越えるか越えないかの違いかもしれません。
登場人物達は、テンプレのように、単なる悪人、正義の味方など一辺倒のキャラクターは1人もいません。人間は不完全で愛すべきものという、そんな、できこそないの人間への愛を感じます。
彼らの「二面性」がかなり丁寧に表現されているのもこのドラマの魅力です。
造幣局、警察、教授のアジトと舞台の範囲が狭い
ドラマの舞台は、人質をとって強盗団が立てこもった造幣局、強盗団のボスである教授と交渉をする警察の車中、強盗団に指令を出している教授のアジト、この3カ所で繰り広げられています。
過去の回想として、強盗前の5ヶ月間講義をしていた郊外のアジトも出てきます。派手な場面転換がない分、人間の感情や思いにフォーカスしたドラマになっています。
それぞれの登場人物達の過去や、どんな思いでいるのかを主役級はもちろん、脇役に至るまで丁寧に作り込まれています。
何かと何かが対立するドラマは、視聴者はどちらかの肩を持つようなストーリーが今までのセオリーでした。
しかし、ペーパーハウスでは、強盗にも警察にもそれぞれ希望、苦い思いを抱えている様子が伝わってくるので、どちらの側に立つことができません。
その矛盾した様子が、ドラマの展開を読めなくさせています。
教授の機転力の高さと頭脳戦
このドラマの最大の見どころは、何と言っても、「教授の頭脳」です。
強盗計画に5ヶ月の事前準備をし、計画に隙が無いよう完璧に準備をしますが実行すれば、現場で様々なトラブルが発生します。
そのトラブルに対して臨機応変に対応する様子が見どころになっています。
機転①廃人になりすました
最初に「教授すごいな」と思ったのがおそらくこのシーンです。偵察用に手配した車を、教授はヘルシンキに廃車にするように指示しました。
しかし後から「ヘルシンキは車を廃車にしていない(プレス機にかけてない)」ということが発覚しました。
その車には強盗団の指紋がベッタリと残っているため、警察がそれを取り押さえたら完全にアウト。
教授は慌てて廃車置き場へ行き、すぐさまアルコールとアンモニアで指紋を拭き取りました。
しかし退散前に警察が到着してしまった為、そこから逃げることが出来ずに近くのコンテナの中に隠れました。その中で教授は機転を利かせます。
自分の衣服をズタボロにし、砂を顔に塗り付け、鼻血を出し、指紋拭き取りに使ったアルコールを飲み酒臭さを演出します。
そしてコンテナから、浮浪者のようにボソボソ言いながら登場。その場にいたラケルに怪しまれることなく立ち去ろうとします。
一応ラケルは「彼も調べて」と一人の警官をよこしますが、その警官をしっかり欺きます。警官と質疑応答をしている時、支離滅裂なことを言い、わざと失禁し、アンモニア臭をごまかします。
そして警官から「行っていいぞ」と言われ、その場から退散。
その直後、ラケルはその場に落ちているアルコールの空き容器やヘアーネットの存在に気付き、「あの廃人が犯人」と気付きますが、時すでに遅し。教授はその場から立ち去っていました。
機転②ロシア人を脅した
先ほどの廃車置き場の件で、教授は「廃車置き場の管理人」にだけ顔がバレてしまいました。その管理人はロシア人で、教授の顔のモンタージュ作成に協力します。
そしてもう少しでモンタージュが完成するというところで、教授が機転を利かせます。
教授はこっそり巡回中のパトカーに乗り込み、そのパトカーの無線を使いロシア語で、
「俺の顔が知られるようなことになれば、お前(管理人)の娘を殺す。言っておくが警察は守ってくれないぞ。」と脅します。
ちなみにロシア語なので、警察本部の全員がその内容を理解できません。
これにビビったロシア人はモンタージュ作成を中断し、無事教授は顔バレを防いだのでした。
機転③証拠のすり替え
強盗団の宿舎「トレド」は、警察が踏み込んだ時には既に教授が偽装した後でした。
しかし、「写真の燃えカス」を、ラケルの元夫であり、やり手の科学捜査官でもある「アルベルト・ビクーニャ捜査官」に証拠として回収されます。
もしかしたら、この写真の燃えカスから教授の正体へと辿り着かれるかもしれません。教授は、アルベルトと二人でドライブしている時に、わざとアルベルトを煽ります。
するとアルベルトは腹を立て、教授に決闘を申し入れます。教授は格闘技を心得ていたようで、何の攻撃も食らうことなくアルベルトを絞め落とします。
そしてその隙にトランクにあった証拠を取り出し、事前に作っておいた「新聞の燃えカス」にすり替えます。
写真の燃えカスから本当に何かが判明するのか不明ですが、心配性の教授は徹底して自分の正体を隠し通しました。
機転④自ら身体を殴打
教授に絞め落とされたアルベルトは、自分から勝負を申し込んだにもかかわらず「警察への暴行罪」ということで教授を逮捕します。
そして警察署まで連行されている間、他の一般人から「お前、警察を殴ったんだって?一方的に殴っただけなら、そりゃダメだよな。」的なことを言われ閃きます。
教授はトイレへ行き、靴下に石鹸を詰め、その即席武器で自分の胴体を何度も殴りつけ打撲痕を作りました。
そしてラケルにその傷を見せ、「アルベルトと殴り合いになり、防衛として仕方なくやり返した」と言い、見事正当防衛が成立させます。
ついでに自分の情報を警察に登録されるのを阻止します。もちろんアルベルトは一切の心当たりが無いので不審がりますが、教授は窮地を脱しました。
機転⑤ピエロの公募
「唯一教授のアジトを知っているアンヘルが意識を取り戻した」という情報を聞き、教授はそれが事実かどうか確かめることにしました。
しかし、アンヘルの病室には当然警察が待機していることが予想されます。
そこで教授は「ピエロのオーデイションを病院で行う」という嘘の情報を流し、病院になだれ込んだ大量のピエロと一緒に、扮装して紛れ込むのに成功しました。
そしてピエロになりすまし、子供に「ウサギの人形」を渡します。その子供にアンヘルの病室まで行かせ、その頃には教授はバイクで病院を後にしていました。
ウサギの人形にはカメラが仕掛けてあったので、教授が病室まで行く必要はありません。
これにより見事警察を欺き、確保されることなく「アンヘルはまだ気を失ってる」と知り得たのでした。
極限の状態の人間心理を丁寧に描写
このドラマは、11日間の長きに渡る、造幣局の籠城を描いています。
人質達は、当初は強盗団に怯えてなすすべなく震えるばかりでしたが、人間の「生きよう」とする本能から強盗団の指示に段々と従わなくなっていきます。
特にそれが印象的なシーンが、人質の一部が脱出に成功し残った人質の1人である高校の先生が立ち上がって拍手をします。それにならって人質達が拍手喝采の嵐。
強盗側は、黙らせようと銃を向けますが、人質達の拍手喝采はおさまらない。というシーンです。
「反抗」することは、人間の生きる本能からくるものだと教授の講義から教えられていたので想定内とはいえ、11日間、警察と人質達と対峙する強盗達のストレスも限界まできていました。
支配する側の強盗団と、支配される側の人質達。反逆側であった強盗団に対して、人質達が反逆しだすというパラドクスが起こります。
その事態をおさめるために、人質達と信頼関係を築こうと働きかけます。恐怖や服従では人は支配できない。
反逆に対する奥深いテーマを感じるシーンでした。
さらに、ゲス不倫の造幣局局長のアルトゥーロが、まさに鉄の棒で叩かれそうになる直前に、このようなセリフを強盗団の1人に言います。
「逃走を図らないと本気で思ったか?身を守ろうとしないと?殺されるのを傍観しているとでも?拷問や暴行に耐えると?何度でもやってやる私を殴る気なら殺さないと後で私に殺されるぞ。
仕事をしに来たんだ、いつもの朝と同じく誰も傷つけてない義務を果たしに来たんだ。どっちが善人だと?お前たちか?早くやれ」
結局は殴られずに済みます。このアルトゥーロのセリフは、強盗団を応援しかけていた視聴者にとって考えさせる深い言葉です。真面目に生きている人は尊いです。
このペーパーハウスは、自分の目で、耳で、頭で、何が正しいか、何が間違っているかを考えさせる大切さを訴えています。