｢黒いスーパーマン｣が誕生する

「鳥だ！」「飛行機だ！」「いや、黒いスーパーマンだ！」そう叫びたくなる映画のプロジェクトが、現在ハリウッドで進行しています。

ワーナー・ブラザースとDCが製作するリブート版『スーパーマン』で、主人公は黒人になる予定なのです。

本作のプロデューサーは「スターウォーズ」シリーズなどで有名なJ・J・エイブラムス、脚本を手がけるのはタナハシ・コーツ。

エイブラムスは声明で、「まだ語られていない、新しく、パワフルなスーパーマンの話があります。

才能豊かなコーツ氏と一緒に、その話をビッグスクリーンで語れることに、興奮を感じています」と語っています。

ハリウッドが目指す「脱・白人男性至上主義」

本作に登場するスーパーマンが、おなじみのカル＝エルことクラーク・ケントなのかどうかはわかりません。

原作コミックには、カレルことカルヴィン・エリスという名の黒人スーパーマンが登場するので、彼が主役の映画かもしれないです。

実は、「黒人のスーパーマン」はふたつの意味で優れたアイデアなのです。

ひとつは、今、最も重視される「ダイバーシティ（多様性）」にかなっていること。ポリコレと言われてしまえばそうかもしれません。

しかし、ハリウッドのメジャースタジオによるアクション超大作は、「ヒーローは白人男性」というイメージがどっぷり定着している上、多額の予算をつぎこみました。

スタジオがリスクを恐れ、多様化を持ち込むのが他のジャンルより遅れていたのです。

そんな中、2017年に公開された女性が主人公の『ワンダーウーマン』と、翌2018年に黒人が主人公の『ブラックパンサー』が大ヒット。

観客は白人男性以外のスーパーヒーローを喜んで受け入れるのだと証明されたのです。

その結果にスタジオは安心した一方で、ますます意識して白人男性以外のヒーローを生まなければというプレッシャーも感じていたのです。

批評家からも絶賛された異色作「スパイダーバース」

ふたつめは、ストーリーやキャラクターを新鮮にするうえで、シンプルな手段であることです。

おなじみの設定も、主人公の性別や人種が変わるだけで新鮮に見えるものです。

最近も、ワーナーは『オーシャンズ11』のスピンオフとして女性キャストの『オーシャンズ8』を作りました。

近作の中で一番の成功例は、ソニーの『スパイダーマン：スパイダーバース』でしょう。

主人公はピーター・パーカーではなく、マイルズ・モラレスという名の黒人の高校生。

さらに実写でなくアニメという手法を選んだ本作は、過去のシリーズにはない斬新な雰囲気を持ち込みました。

一方で、ピーター・パーカーやメリー・ジェーンなどおなじみのキャラクターもちゃんと登場し、これまでのファンも楽しめるようになっているのです。

批評家からも高く評価された本作は、2019年にアカデミー賞の長編アニメ賞を受賞する快挙も果たしました。

苦戦を強いられてきた「スーパーマン」映画

結果、近年のスーパーマン映画はその知名度に反して、苦戦を強いられていました。

ブランドン・ラウスのスーパーマンは、シリーズ化を想定していながら『スーパーマン・リターンズ』（2006年）の1本で完結。

どうすればアメリカで最も高い知名度を持つヒーローを面白くできるのか？ 誰もが考えあぐねていたわけです。

だが、スーパーマンを黒人にすれば、それだけでこれまでの映画の雰囲気とはガラッと変わります。

主人公や主要キャラクターの脇に追いやられていた黒人が、完全無欠のスーパーヒーローを演じるわけだから、きっと過去作品にはない新しい視点や発見に満ちた作品になるだろう。

つまり、白人だったキャラクターを黒人にするというのは、ポリコレへの配慮だけではなく、映画の質やビジネス面でも意味をなす決断だったのです。

2018年の『ハン・ソロ／スター・ウォーズ・ストーリー』で若き日のランド・カルリジアンに抜擢されたドナルド・グローヴァーも、「ハリウッドの未来に、それ以外の選択肢はない。

映画をたくさん見てきたからわかるけど、映画では同じ話が繰り返される。

リベンジ物語だったり、恋愛物語だったり。そういうものを作り続けるうえで、同じに見える人を出したら、同じになっちゃうんだよ。

ハイスクール物にしても、たとえばカニエ・ウエストの高校時代の話だったりしたら、新鮮じゃないか？」と語っています。

だから、スーパーマンも、白人と黒人、両方いていいのです。

カヴィルはまだまだスーパーマンを演じたいと言っていますし、そのうちふたりのスーパーマンが共演する映画もできるかもしれません。

意味のないこだわりを捨てたことで、映画の未来への可能性は大きく広がったのです。

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