スピード

『スピード』(Speed)は、1994 年公開のアメリカ映画である。

爆弾魔とSWAT による、手に汗握る攻防を描いたノンストップ・アクションで、速度が50 マイル毎時(約80km/h)以下になるとバスが爆発するという設定です。

次から次へと起こる危機を頭脳的かつゲーム感覚で解決していく展開が繰り広げられる。

この映画で爆弾を仕掛けられたバスは、GM New Look bus のロサンゼルス・サンタモニカ地区で走るBIG BLUE BUSである。

同作がデビュー作となったヤン・デ・ボンや主演のキアヌ・リーブス、サンドラ・ブロックが一躍有名となった作品でもある。

引用:
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%94%E3%83%BC%E3%83%89_(%E6%98%A
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ダイ・ハード以降、アクション映画業界は低迷していたが、『スピード』のおかげで低迷から盛り返すキッカケになった。『スピード』のヒットの要因を分析する。

元ネタは黒澤明監督

『スピード』の脚本を書いたグラハム・ヨストは、映画『暴走機関車』の原案である黒澤明が書いたオリジナル脚本を読んで思いついたと公表している。

ブレーキのきかなくなった機関車が20 マイル以下になると爆発する爆弾がついたバスにすると面白いのではないかと思いつき、その後、彼の友人からの提案で50 マイル以下に変更した。

なお、映画として公開されていた『暴走機関車』(1985 年公開のパニック映画)は、黒澤明監督の脚本から大幅に改稿されている。

映画化されていない元の脚本が『スピード』の元ネタである。

余談だが、元々の黒澤明監督の『暴走機関車』は、ところどころにアメリカを意識してアクションの合間にコメディ要素を盛り込んだ内容だったそうだ。

しかし、映画化された『暴走機関車』は、コメディ要素を排除して黒澤明監督ならほとんどいれない、ラブロマンスの要素や訳の分からない人間の確執などが挿入されてしまった。

出来上がった映画に対して黒澤明監督は批判をしたのだ。

『スピード』には、ところどころにコメディ要素があるのである意味、黒澤明監督が実現できなかった『暴走機関車』が蘇ったものかもしれない。

日本の影響を受けて、低迷していたハリウッドのアクション映画が復活したことは、かつて、ヨーロッパの芸術がジャポニズムで活気を得たことに似ている。

監督ヤン・デ・ボン最後のチャンス

ヤン・デ・ボンは、、「ダイ・ハード」「ブラック・レイン」、「レッド・オクトーバーを追え!」などで撮影監督を務め、そのダイナミックな撮影技術に定評があった。

そして1994 年に『スピード』で監督デビューを果たした。

派手なアクションシーンが多い『スピード』だが、その製作費は驚くほど安く、たったの3000万ドル(日本円で30 億円)しかなかった。

ハリウッド映画にてアクション映画を3000万ドルで製作するというのは、常識としてかなり低予算である。

ハリウッドでは、映画の制作費が10~30億円だと低予算の範囲だった。

参考までに、

●制作費30億円~100億円:ハリウッドなら「中堅・普通」クラス

クマのぬいぐるみの「テッド」が50~60億円、そして、ジム・キャリー主演の「イエスマン」が70億円以上かかっている。

有名スターが出演するヒューマンドラマや、大作ではないアクション映画はこのくらいの制作費となる。


●制作費が100億円を超えたら、やっとハリウッドでも大作レベル

「デッドプール2」が110億円以上、「トランスフォーマー」1作目が150億円以上、「アバター」は250億円近い制作費がかかっている。

ハリウッド映画は、世界中で公開し、興行収入を1000億円以上を狙っているので、制作費のスケールが日本とは違う。日本では、制作費が1億円を超えると、まあまあの規模の作品になる。

いかにハリウッド映画が日本と桁が違うかをうかがい知ることができる。

当初、ヤン・デ・ボンはこの低い予算に難色を示しつつも、既に50 歳を超えていたこともあり、「映画監督になれるチャンスは無いかもしれない」と判断して引き受けた。

その3000万ドル以内で自身の目指すアクション映画を目指すために智恵と工夫で乗り切った。

・「バスが車を破壊しながら進む」などの大掛かりなクラッシュシーンのために台風の被害で廃車になった自動車を安く買い取る。

・低予算映画なので、未公開シーンがほとんどなく、撮影した映像はほぼ全て使用されている。

本作の見どころでバスが15 メートルほど途切れたフリーウェイを大ジャンプするシーンは、あまりにも危険、絶対不可能とスタッフから猛反発があったが監督の強い希望で実現された。

アクション映画の世界の中では、現実では絶対無理、できない事がスクリーンの中で映像として表現している。

実は『スピード』の現実の撮影現場でも、不可能な事を実現させるための闘いがあった。

監督の「覚悟」が、『スピード』を魅力的な映画にしたのであろう。

なお、『スピード』の興業収入は、アメリカ国内で約1億2,000万ドル(日本円で131億円)、全世界で約3億5,000万ドル(383億円)。

制作費3000万ドル(30億円)でこれだけの偉業を達成したのだ。

キアヌ・リーブス

『スピード』以前にヒットしていたアクションシーン映画は、キャラクターの個性とアクの強い刑事が大暴れするパターンが多かった。

『スピード』のキアヌ・リーブス演じるジャック・トラヴェンもロス市警のSWAT 隊員であるので、刑事であり、危険を省みず立ち向かう、というのも今までのアクション映画と同じである。

しかし、監督ヤン・デ・ボンがキアヌ・リーブスを抜擢した理由は「彼は大きすぎないため男性を脅かすことがなく、女性にとっては素晴らしく見える」

威圧的ではない、女性受けする主人公をアクション映画に起用したのである。

また、キアヌ・リーブスは、仏教徒ではないが、仏教やアジアの文化に造詣が深い。

彼の祖母が中国系のハワイアンであったことから中国美術や中華料理に囲まれて育った背景をもっている。

さらにベルナルド・ベルトルッチが監督する「リトル・ブッダ」でのちに悟りを開き釈迦になる若きシッダールタ王子を演じたことがある。

東洋や仏教に対する尊敬を抱き、「マトリックス」や「ジョン・ウィック」シリーズにはアジアのテイストが散りばめた。

また、千葉真一の熱狂的なファンを公言しており、千葉真一のアクションに強く影響を受けているとも言っている。

余談だが、かなりの親日家であり日本に来た際は取材の合間にラーメン屋のはしごをするそうだ。

ハリウッド俳優だが、アジア文化の素養が彼の演技に意外な深みを与えているのかもしれない。

なお、ヒット要因がキアヌ・リーブスである根拠のひとつに、『スピード』の次に『スピード2』が公開された。

しかし、キアヌ・リーブスは出演せず、『スピード』でヒロインを演じたサンドラ・ブロックを主役に据え、監督はヤン・デ・ボンだったが記録的な大コケをした。

制作費1 億4 千万ドル、全世界興行収入 1 億6450 万ドルひどい映画に贈られるラジー賞を受賞するほどひどい映画だった。

なお、キアヌ・リーブスが『スピード2』に出演しなかった理由は、脚本がつまらなかったからだそうだ。脚本を見る目は確かであることが、この事から実証されている。

アメリカの映画だがアジアの影響

脚本は黒澤明監督。主役のキアヌ・リーブスは、中国などアジアの文化の影響を受けている。

監督ヤン・デ・ボンのダイナミックな撮影技術とこれが監督として最後のチャンスと腹を決めて挑んだ映画。

1988 年の「ダイ・ハード」から低迷していたアクション映画を盛り上げるキッカケになった『スピード』には、実は、日本の影響があった。

文化の低迷に対して、日本の影響を受けることでその文化が盛り上げるキッカケになるのは、ヨーロッパの芸術に日本の文化が影響を与えた、ジャポニズムを想起させる。

日本の文化やその精神は、芸術を盛り上げる起爆剤になると『スピード』のヒットから読み解けるのかもしれない。