1秒の定義が変わる

モノやコトには基本的に定義があります。たとえば、イスとは「木製、鋼製等使用材料にかかわらず作業又は休息のために腰を掛けたり、座ったり等を主たる目的として使用するものです。

背もたれ、肘掛け又は脚等の有無にかかわらず座面を有するものをいう」と定義されています。

このように、定義は、「モノゴトの内容や意味を他のものと区別できるようにハッキリと限定すること」を意味しています。したがって、定義が変わることは基本的にありません。

ですが、変わるイメージが全く湧かない「1秒」の定義が、今後、変わるようです。

1秒の長さ

これまで、どのように1秒が定義されてきたのかご存知ですか?元々は、「地球の自転の1回転」が基準でした。

つまり、地球の1回転にかかる時間を8万6400で割った時間が、1秒の長さ(24時間は8万6400秒)でした。

しかし、技術進歩により、自転の速さが一定でないことが判りました。地震などで地下の岩盤の分布が変わる。または、高山の氷が解けて下流に流れることが理由です。

その後、基準が変動する状況は都合が悪いため、1967年から今日に至るまで、原子を使って定義されるようになりました。

現在の定義は、「セシウム133(アルカリ金属元素の1種)の共鳴周波数を9,192,631,770ヘルツとする時間」です。

物質を構成する原子の中には、特定の周波数の電波を受けると、状態が変化する特性を持つものがあります。

この性質を生かし、電波の振動する回数を測定することで、1秒の長さを決めているのです。

この方法であれば、3億年で1秒ずれる程度の精度となります。この精度の計測ができる時計が、原子時計です。

光格子時計登場

現行の原子時計で充分と感じるのですが、原子時計の精度を上回る時計が現れました。2001年、東京大学の香取秀俊教授が提唱した光格子時計です。

これは、「ストロンチウム原子に周波数を測定するためのレーザーを照射し、レーザーが吸収される周波数を探すことで、超精密な1秒を割り出す方法」が採用されています。

電波よりもさらに細かく振動するため、より細かい目盛りで1秒を決めることができます。そのため、300億年で1秒ずれる程度の精度となります。

2030年に再定義

光格子時計の登場で、「より精度の高いモノが手に入るのに、従来の方法を採用し続ける状況は良くない」という考えが科学界で広がってきました。

そのため、2022年11月に予定される国際度量衡総会で、「2030年に秒の再定義ができるように努めましょう」という趣旨の決議が採択される見込みです。

では、秒の定義が見直されると、1秒の長さが変わるのか?というと、そういうことはありません。「1秒」という時間の算出方法を変えているだけだからです。

もし1秒が変わるのであれば、100m走の世界記録など、各所に大きな影響を与えてしまいます。

実は、秒以外の物理基本単位である質量(キログラム)や電流(アンペア)も2018年に定義変更になっています。

もし、キログラムそのものが変わっていたら、ダイエット業界に大打撃ですので、「そのもの」が変わっているわけではないのです。

ですが、時間の定義が変わることで、より良い未来を迎えられるかもしれません。その理由は、時間が物理量の中で最も精度が高いものだからです。

そのため、他の物理量の定義も「時間と光の速さ」を基に決められています。定義変更により、時間の算出精度が上がれば、たまにズレのあるGPSなどの精度向上に繋がります。

なので、定義変更は、非常に意味のあることなのです。


引用画像:
https://www.jiji.com/jc/v8?id=202210nict-fukabori
https://www.jiji.com/jc/v8?id=202210nict-fukabori&p=202210nict-fukabori-kanrenzu_680
https://www.aist.go.jp/aist_j/news/pr20211015.html

参考サイト: